Leo Ashizawaの「元気でやってるよ。」「元気でやってけよ。」

自分がやりたいことを少しでも伝えるには、自分自身の中でそれなりに土台が必要です。僕の土台はこのメッセージ。これまでお世話になった人へ。これからお世話になるであろう人へ。ロンドンで活動する役者、Leo Ashizawaからの便り。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

青い空と大きな時計、晴れ

青い空と大きな時計、晴れ


赤い絨毯が伸びる長い廊下のちょうど中央
彼は窓から外を眺めていた。

雪の多い日には見渡しも悪く、窓からの景色も彼の興味をあまりそそらない。
ただ、今日はこの季節には珍しい快晴だった。空の太陽は少し眩しかったが
あまり気にもせず、彼は町を見下ろしていた・・・見下ろすというよりも見つめていた。


「おはようございます。」




一見みすぼらしいそうな蝶ネクタイ、蝶の羽のような部分の片方がダークブルーで片方がワインレッド

それが彼のトレードマークだった。別にその色が好きだったわけではない。
どちらかというと彼は赤や青よりも緑や黄色が好きだった。

初めてこの城で奉公することが決まった時に
祖父から譲り受けた黒い蝶ネクタイがあまりにも堅苦しいので
母親が作り直したのだ。

家には予備の生地などなかったし、新しい蝶ネクタイなど買う余裕もなかった。
そこで、母が唯一持っていた豪華なドレス。そのドレスの生地がダークブルーとワインレッドだった。

「私も歳だし、こんなドレスをもう着ることはない。このまま置いておいてももったいないだけだ。」
そう言いながらドレスを切り、不器用な手つきで蝶ネクタイを作り直してくれたのである。

「おじいちゃんには内緒よ。」
うつむき加減で蝶ネクタイに針を通しながら微笑んでいた母の笑顔は彼の宝物だった。



生まれた頃から父親を知らず、母と母方の祖父との3人暮らしだった彼は
祖父を父親のように慕っていたし、感謝もしていた。父親の話には一度も触れたことがない。
祖父は1ヶ月に数回、家に帰ってくるのみで、物心がつくまではどんな仕事をしているのかも知らなかった。




初めて祖父の仕事の内容を聞いた時のことを彼は今でも覚えている。




3人の暮らす家は町から少し外れたところにあった。
馬小屋を改築したような小さなもので、正方形の部屋に
ベットに横になっていても、遠くに小さくお城が見える1つの小窓。

3人分の洋服が入った小さなオーク材のクローゼットが1つ。
不安定な4人掛けのテーブルと3つの壊れかけた椅子。
さらにキッチンとシングルベットが2つ。
殺伐とした部屋だが、彼はまったく気にしていなかった。

基本的には祖父と母親がベットを使っていたが祖父はほとんど家で寝ることはなかったし
極稀に、3人が揃って夜を過ごす時にはベットをくっつけてその真ん中で寝ていた。

微妙に身体が落ちそうになるベットとベットの隙間を
自分がそこに居る事で埋めることが出来ているのが
まるで家族の絆を自分が埋めているようで、彼は幸せだった。




その日は大雪だった。




風と雪が窓と扉を叩く音で眼が覚めた。
目覚めると椅子に座り、コートの両肩の雪を払いながら
腰を折り曲げ、靴を脱ごうとしている祖父の姿が見えた。


反射的に彼は飛び起き
「おはよう」と祖父に言いながらベットを綺麗に片付けだした。


朝、疲れて帰ってきた祖父はいつも、紅茶を飲むとすぐにベットに入るからだ。
まだ母がスヤスヤと寝ていたのでもう一つのベットは埋まっている。



そんな彼の姿を祖父は、優しさと申し訳無さが複雑に入り混じった表情で見つめていた。



心の奥底から搾り出したような深い声で
「ありがとう」
そう言うのが祖父には精一杯だった。


彼は特に何も言わず
無邪気な満面の笑みを祖父に返した。
本当に言葉が見つからなかったのだ。


そのまま彼は祖父のそばに寄り「おかえり」と言いながら
椅子にかけてあるコートを手に取り、もう一度、雪を払おうとすると
その手に祖父が優しく触れてきた。



「この手・・・この手にお前の優しさがつまっとる。
ワシは色んな年齢の色んな人の手を見てきたがこんなに優しい手は見たことがない。」


祖父の目に涙が浮かんでいるような気がした。
そんな祖父を今までに見たことがない。彼は驚きを隠せず動く事もできなかった。





しばらくして突然、祖父が口を開いた。
「ワシはな、あの城で執事をやっとる。召使のようなもんじゃ。」





(あの城・・・・・)


彼は祖父の言葉を反芻した。


窓から見える外の世界。
自分の生活とはかけ離れた外の世界・・・。


「お前もいつか・・・・ワシの後を継いでな・・・・。」
そう言いながら祖父は紅茶を入れにキッチンへ向かった。




その背中が彼には忘れられない。




出かける前はいつも大岩のように、しゃんと大きい祖父の背中は
年老いた花売りの老婆のように折れ曲がっていた。




それが何を物語っているのかわからないほど彼は幼くはなかった。








「おはようございます。お、おはようございます?」

ミランダが不思議そうな顔で彼を見つめている。


「どうかされました?クロノアさん?」


「あぁ、すまない。おはよう。ちょっとね。」


「いい天気ですね。」
声でミランダの機嫌はすぐにわかる。


「今日はご機嫌さんだね。」
そう言いながらクロノアはまた窓の外を眺めている。


「はいっ、こんな素敵な天気ですもの・・・。
・・・。・・・・・。では、失礼します。」
少し気まずそうな空気を感じ取ったのか、ミランダはそそくさとその場を去っていった。


窓から降り注ぐ太陽の光は綺麗に赤い絨毯を照らしている。


「いい・・・天気だな。」

そう言って、クロノアは名残惜しそうにその場を離れた。
町の外れにある廃屋のようになった小さな小屋を瞼の裏に十分に焼き付けた後に。


かつては家と呼ばれていた小さな小さな廃屋を焼き付けた後に。





- 0 Comments

Add your comment

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。