Leo Ashizawaの「元気でやってるよ。」「元気でやってけよ。」

自分がやりたいことを少しでも伝えるには、自分自身の中でそれなりに土台が必要です。僕の土台はこのメッセージ。これまでお世話になった人へ。これからお世話になるであろう人へ。ロンドンで活動する役者、Leo Ashizawaからの便り。

ロードトリップ 3

ロードトリップ 2 からの続き


結局、Mのホットチョコレートは僕が結構飲んだ。少し疲れも溜まってきていたから、これから運転する距離を考えるとエクストラカフェインは望むところだ。そこから、3時間ほどかけて僕らはビスカロッセへ向かった。



スペインもフランスも高速道路の法定最高速度は130 kmだ。後10 kmも出せば、デロリアンならタイムスリップしてしまう速度だ。久しぶりの車の運転だし、右車線だし、「だし」「だし」と色んな理由をつけて、法定速度を出すのにとまどってしまう。

日本の教習所に通っている時に受けた高速道路教習で、眉間の皺に折り紙を何枚も挟めるんじゃないかというくらい常にしかめっ面の教員に「ちゃんと100km出しゃにゃーあかん。」教わったことを思い出し、円滑な交通のためにもちゃんと法定速度を出すべきなのだということは知っていた。僕は思いっきり、アクセルを踏み込んだ。

この高速道路は、三または二車線だ。そして、スペインとフランス(ボルドーまで)を繋ぐ主要な高速道路なので、大型トラックの数がすさまじい。夜の名神や東名みたいなもんだ。


名神や東名、高速道路と言って、ふと思ったので、一応伝えておくと、こちらの高速道路は、車が<高>い場所を走って<速>いスピードでどこかへ辿り着ける<道路>ではない。

確かに非常に<速>いスピードで目的地に辿り着くことはできるが、単に平野を切り開いた中にある道路がほとんどだ。それに、有料ではあるが、日本と比べると格段に安い(イギリスの高速道路は無料だ)。
ただし、その分整備が行き届いていないため、日が暮れると文字通り、真っ暗になってライトがなければ何も見えなかったりする。だから、夜なんて前に車がいてくれるとホッとしたりする。そこいら中ずーっとハイビームで運転したいくらいだ。

大型トラックは、かなり遅い、もとい、やつらがスピードを出すと横を通るのが怖い。ブルブル震えてるんだもの。巨大なトラックの時速130km、迫力満点だ。ほとんどの場合そんなことはないので、とにかく、二車線の場合<右車線>をトラックが占領する。

繰り返すが、右側車線なので追い越し車線は左側だ。右側を走っていて、トラックがいると、左に移り追い越したら右に戻るを何度も何度も繰り返す。

僕は、この行為を正月の餅つきと名づけていた。そんなことを繰り返しているとそのうち、「あー、もう杵を持ち上げて振り下ろすのが面倒くさいから、臼に押し付けたままグリグリしちゃだめ?」という気分になってくる。
もー、ずっと左車線(追い越し車線)にいたいのだ。それに僕は左利きだし。


で、左にしばらくいると、もういつでも簡単にタイムスリップ出来てしまうようなスピードで後ろから車が迫ってくる。その時はだいたい車は、左のウィンカーを「チッカ、チッカ、チッカ」と出している。



通訳すると



「どっけ、おまえ、どっけ」



という意味だ。





それを見ると、右車線に戻ろうと試みる。トラックがいなければ、普通に戻る。トラックがいたとしても、象の群れの中に、身を隠すガゼルのようにできるだけ、速やかにトラックと同じスピードに合わせながら、違和感なく入り込もうとする。
しかし、トラックはトラックで、追い抜かされたり、入り込まれたり、茶々入れられることが多いので、苛立っている場合だってある。

快晴の真昼間でここぞとばかり、夏を満喫し、公園で寝転がりながら、瓶ビールを飲んでいる。そこに、蜂が飛んできて、自分の周りをブンブン豪快に飛び、しまいには、自分のビール瓶の中に落ちてしまう。
瓶の口は細すぎて、ビールを少し流すだけでは、蜂は出てこない。ビールは僕の口ではなく、マザーアース、公園の芝にゴクゴク飲まれてしまう。芝だって迷惑だ。これほど苛立つことはない(個人的に。蜂には可哀想だと思うけど)。
鬼気迫りながら必死で何とかして、蜂を追い出そうとする、失うビールを最低限に抑えつつ。



おそらくトラックだってそんな風に感じたっておかしくない。
天気が良くて、早く家に帰ってビールを飲みたければ。フランスだから白ワインかもしれないけれど、トラックの運転手達は個人的にビールジョッキを一杯目は一気に飲むくらいの気概があって欲しい、ガッハッハと(偏見でごめんなさい)。

フランスだって美味しいビールはたくさんある。例えば、クローネンバーグは僕の大好きなラガーだ。




僕は、イギリスで飲むドラフトのクローネンバーグが好きだから、フランスに行ったら本場のクローネンバーグを飲んでやろう、味が絶対違うんだろうなと楽しみにしていた(アイルランドでギネスを飲んだことがある奴らはいっつも全然違うと自慢げに言うんだ。)。

ビスカロッセのバーで、僕はクローネンバーグのような青いロゴがついたタップを見つけたので、「クローネンバーグ」と日本語訛りではないけれど、中途半端なフランス語っぽい言い回しで、注文してみると、何だか知らない真っ赤なロゴのビールからドラフトを注がれた。僕は、自分の発音が悪すぎたのか不安になりモジモジしたが、「いや、僕が飲みたかったのはその横のブルーのロゴのビールだよ」と言えず、恨めしそうに、そして美味しそうに注がれるビールを眺めていた。





そして、兄ちゃんは言った。「クローネンバーグ。」





間違ってなかった。あぁ、これがクローネンバーグなんだ。飲んでみると、とてもあっさりして、あっつい夏にスカッと飲むのに最適なSOLやコロナ(とうもろこしビールだけど)、レッド・ストライプみたいじゃん、イギリスで飲むのと全然違うじゃんと割りと驚いていた。

ビスカロッセの雲ひとつ無い空から煌々と照らす太陽の下で飲んだから、やっぱりちゃんと気候が反映されているんだと感心しつつも、ちょっと残念だった。結局、その後それは僕の大きな勘違いだということがわかった。

ボルドーでビールメニューを見ると、僕がイギリスで飲んでいるクローネンバーグは、クローネンバーグの中でも1664と呼ばれるもので、クローネンバーグとは言わないみたいだということがわかった。確かに、イギリスで売ってるクローネンバーグにも1664と書いてある。まぁ、「キリンラガーちょうだい」と「一番搾りちょうだい」っていうくらい違うようだ。



そして、味も・・・1664は僕がイギリスで飲んでいるクローネンバーグと同じだった。

つまり、生産国のフランスだからってクローネンバーグがもっと美味しいってわけではなかった。日本で飲む一番搾りの方がイギリスで飲むKirin Ichiban(一番搾り)より遥かに美味しいし、チェコで飲むスターラップラーメンも、イギリスで飲むよりチェコで飲む方が遥かに美味しいのに。噂にいうギネスも。



このときには、もし蜂が僕のビールの中で優雅に泳いでいたとしても、苛立ちはしなかったと思う。



だから苛立っていることが原因で、左車線から右車線に戻ろうとする車をスピードを上げて入れないようにするトラックの隙間に入り込むのは、感覚的に危険だということはわかっている。このときの僕らは蜂と同じだ。



それでも、後ろからは、車が



「どっけ、おまえ、どっけ」



と言ってくる。



板ばさみだ。そんなことが何度か続いて、疲れがどっと襲ってきた時に、僕は気がついた。

Mに丁寧に確認してみる。





「あのさ、もしかしてほとんどの車さ、ウィンカーを意図的に出しているわけじゃないんじゃない?」





「え?どういうこと」



僕はMに自分達の前の車が右側車線から追い越し車線に入るときに出した左のウィンカーがそのまま点滅しっぱなしなことを伝えた。

確かに僕が借りている車も、自分でウィンカーを消さないと右車線から左車線に移り、ちょっとハンドルを右に返すだけではウィンカーは消えない。
(日本の車だと繊細にウィンカーを感じてくれたような気がしたけど。どうですか、みなさん?)





そう思って車をみていると、ほとんどのドライバーが左車線に移った時のウィンカーを放置したままだ。

そして、左車線から右車線に戻ったときは、右のウィンカーが出っぱなしだ。





別に気にしている様子は無い。
消すのだって面倒くさいのか・・・・面倒くさいのかぁ!?





今まで僕はずっと暗黙のプレッシャーで



「どっけ、おまえ、どっけ」



と言われ続けたことに耐えてきたのに、それがわかるととたんにバカらしくなった。





つまり僕は、餅も無いのに一人で臼に向かって杵を撃ち続けたわけだ。なんてこった。

もう、腕が痛くてしょうがない。明日は筋肉痛だ。


そう思った頃には、僕らは高速道路を下りるところだった。繰り返しになるけれど、高速道路を下りるといっても、高いところから下に降りるわけでもない。象の群れが相変わらず豪快に象突猛進を続けているのを尻目に、僕らは、ただ平野を豪快に切り抜いた大きな道から、それて行くだけだ。



耳の奥で、「人は思い込みの中で生きていると思わないか」と囁かれたような気がした。

そして、サーレで買ったバスク地方の特有のマークがクルクル回りだすような気がした。血の涙は流したくない。





Mは僕の長距離の運転を労うように、「太陽が綺麗ね。」と言った。
太陽の日差しを顔面に受けとても眩しそうにしているのに。




右側通行での運転中。左ハンドルですから。





僕らが、ビスカロッセに着いた頃にはすでに夜の9時を回っていた。



雲ひとつない空の下を背の高い針葉樹に囲まれ、先が見えない一本道をひたすら走り続けた。本当にカーナビがあってよかった。なかったら絶対に辿り着けなかったと思う。地図で事前に調べていた、このあたりで右折、そのあたりで左折という印は、一切役に立たなかった。正直なところ地図に載ってもいないような道を走っていた気がする。



正面から太陽が照り続けていたが、そのまま太陽は沈み、太陽が沈んだ頃には、僕らはビスカロッセに着いていた。



ところで、みなさんビスカロッセという場所はあまり耳にしてことがないと思う。



うん、不思議ではない。だって、ビスカロッセとこちらの知り合いに話しても「あー。」という反応は帰ってこない。



とはいえ、まずはだいたい「僕がちゃんと発音できていないのであろう反応」をしてくるんだけど。



一般的に女性であれば、首を右か左に15度くらい倒し、眉毛を0.5cmくらい上に上げる。または、口を少しあけ何かを言おうとするが、僕が次に何かを言うのを待っている。

一般的に男性であれば、顎を2,3cmほど前に突き出し、眉毛を0.5cmくらい上に上げる。または、眉毛を逆に1cmくらい下げ、お菓子の「輪投げ」が口にはいるくらいすぼんで開け、「What?」という。




申し訳ないが(何にだ?)、発音はあっている。

(カタカナで書くと、ビィッスカロォースみたいな言い方をする、英語で。)




その反応を受けてから、「ビスカロッセはね、ヨーロッパで一番大きなピラ砂丘がある場所だよ。」と、僕は片手では数えられないくらいの人数に、旅行に出る前にビスカロッセの説明をした。それも出来る限り、毎回その話が、新鮮な印象を与えるように。



そうやって追加情報を与えると、「なるほど」という反応をする。



反応 ー これは男性も女性も一般的に同じで、「あー。」と言いながら、両肩が外に広がり5cmくらい上半身だけ反る。または、「んー。」と一、二回うなづきながら、腕を組む。



写真を見せるとさらに、「おーすごい」という顔をする。





知り合いのフランス人も知らなかった。おそらくその近くには、アーカションと言う有名なリゾート地、特にボルドーの人の避暑地として、さらに牡蠣の産地として有名な場所があるからだ。アーカションの前にはビスカロッセの名は霞んでしまう。



じゃあ、どうして僕がここを見つけたのかというと、そもそもドノスティア・サン・セバスチャン(せっかくだしドノスティア付けた)に元々行きたかった。
でも、1週間も滞在するなら、そのあたりを旅すればいいんじゃないと思った。

そこで僕は、グーグルマップでどこか近くに隠れがビーチみたいなところはないかと、サン・セバスチャンから少しずつ大西洋側を北上した。夜中に必死で。そして、巨大なビーチ地帯を発見して、「ここはどこだ」と、宝物を見つけた海賊のように、テンションを上げた。
机のライトの光で見えにくかったノートパソコンのディスプレイの角度を変える動きは、まさに宝箱をゆっくりと開ける海賊のようだ。飲んでいたのは、ラム酒ではなくウイスキーだったけど。



「ビスカロッセ・・・ピラ砂丘。うむ。なるほど。」



鳥取砂丘にも行ったことがないし、砂丘なんていいじゃないか。それに、そこは、ボルドーからも近いし、僕はワインが好きだし・・・なんてことで第二の拠点をビスカロッセに選んだ。結果、正解だったと思う。

本当は、50%リラックスで、50%観光みたいな旅にしたかったのだが、結局ものっすごく忙しい旅になった。90%観光、10%リラックス・・・が妥当な割り振りかもしれない。このブログのタイトル「ロードトリップ」はまさに僕らの旅にふさわしいのではないかと思う。行き当たりばったりではないのが物足りないかもしれないけど。



ビスカロッセの滞在先は、同じような建物がたくさん並ぶ中に一軒がぽつんとある民宿のようなところだ。

そこらあたりに立っている木々は、なんとなく日本の海辺の近くに生えているような木々に似ている。そして、海が近い住居の独特の匂いがする。決して潮の匂いがここまで届いているわけではないけれど、懐かしい匂いがする。

僕は、記憶のどこかを探りここと似たような場所を思い出そうとした。子供の頃、よく父親に連れて行ってもらった須磨海水浴場へ歩く道。いつもお寺の駐車場に車を止めさせてもらい、そこから浮き輪をもったり、クーラーボックスをもったりして、サンダルでピタピタ歩いていた。その匂いとよく似ている。風景はもちろん違うけれど。


先にビスカロッセのビーチを話しておくと、このビーチはとりあえずでかい。今回で2回目のビーチホリデーを経験する僕たちは、他のヨーロッパ、その他の国のビーチと比較することができないけれど、正直これだけだだっ広いビーチにはとても驚いた。ただ、風も強くあまり海水浴を楽しむタイプではなさそうだ。それにビーチから海までの距離がかなり遠い。(50mくらいあるかも)。遠すぎて、干潮になったことで海水が取り残されてしまい巨大な水たまりができている程だ。

砂は、違和感なく鼻から吸い込んでしまえそうなほど、細かい。



ビスカロッセビーチ1

ビスカロッセビーチ2




僕らは車を止めて、荷物を出し民宿の中に入る。見た目は1階建ての大きな家だ。ゲートを入ると、やはり少しリゾート感がある。

この場所には少し不自然な芝生に覆われた庭に、ジャグジーがあり、ビーチで使用するような一人用ベンチが大雑把に並んでいる。
僕らが、「ボンソワー」と言いながら受付を向かうと、高い鼻の先に眼鏡が乗っている白髪混じりの天然パーマのおじさんが、僕らの方をみることなく、「ボンソワー」と返事してくれた。
彼の顔は、パソコンの青い光で照らされている。今大切な瞬間だからちょっと待ってくれ。どーやら対戦ソリティアゲームをしているようだ。



少しだけ運転の疲れがとれた気がした。



おじさんは、訛った英語で、丁寧にこの地域のこと、それから近くにあるお勧めのレストランを説明してくれた。



話すたびに唇の横からこぼれそうになる涎を少し吸う音が、文章でいうところの句点や読点になり、あまり深く考えなければ、彼の言っていることは、とても聞き取り易かった。





「オーナーを良く知ってるんだ。



このあたりでは、とても美味しい、レストランだよ。



電話して、おいたから。



あるいて、じゅっぷん、くらいで、いけるから。



きみたちが、最後の、お客さんかも、しれないから、遅れずに、行って、あげてね。



オーナーを良く知ってるんだ。」




オーナーをよく知っていると二回訛りの強くない英語で言った。


確かに美味しいレストランだった。特にその日はMの誕生日だったから、きちんとしたところで食事をしたかったから、おじさんのおかげで素敵な時間を過ごすことが出来た。

フランスのレストランは、どこへ言っても必ずスリーコースメニューがある。そして、量が結構多い。



僕は、牛肉のタルタル、Mはシーフードスペシャルを頼んだ。とても美味しかった。



なかなか美味しいレストランでした。量が多い。ちなみにこれはスターターです。




そして、いつものようにMの食べたものはその晩にすべて、水と共に流れていった。




「Mは最近、

貝類に、

とても、

弱い。」



僕は、眠気まなこでバスルームに煌々と明かりがついているのを見ながら口をパクパクさせた。



つづく

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