Leo Ashizawaの「元気でやってるよ。」「元気でやってけよ。」

自分がやりたいことを少しでも伝えるには、自分自身の中でそれなりに土台が必要です。僕の土台はこのメッセージ。これまでお世話になった人へ。これからお世話になるであろう人へ。ロンドンで活動する役者、Leo Ashizawaからの便り。

僕らの想像が現実となった日②

夕焼け照らす雲の中
下から見上げている橙色の光は、無残にも色を奪い取ってしまっていたが
だからこそ、はっきりと、僕の眼にすら、優雅に荘厳に映ったのだろう。

雲好きな僕が、あれほど、雲を邪魔に思ったことは、今まで他には無かったし、これから先にも無いだろう。

身体中の全神経が眼に集まっている、すべての感覚が眼に集まっている。
立っていることはわかっていたが、どんな風に立っているかわからなかったし、
手は、握り拳を作っていたのか、開いていたのか、それすらもわからない。おそらく、口はポカンと開いていたんだろう。

眼以外に、感覚がなく、思い出すことも出来ない。

     ずっと見つめていた。余所見することなく、ずっと・・・ずっと、眺めていた。

          ずっと眺めていたかった。




噴水の中のフナたちはいつの間にかいなくなっていた。もちろん、死んでしまったものも、たくさんいたが、不思議なことに突然、忽然と姿を消した。

「噴水は一番小さな池と中くらいの池を繋ぐ地下水路に繋がっているから、そこから全部逃げたんだ!」

友達はそう思っていたものの、僕は実際、違うであろうことはわかっていた。


噴水から水が無くなり、ほどんどその役割を果たさなくなる、秋、冬に僕は一度だけ、3段噴水の一番上まで登ったことがあった。
別に何かを求めて登っていたわけではない。ただ、単に、登りたかったから登ったただけだ。地下水路に繋がる秘密の抜け道を探したかったわけではない。
それでも一人で、一通り、不思議なことがないのを確認していたからだ。


おそらく大人がどこかに連れていってしまったんだろうと僕は思っていた。


でも、僕はそれを誰にも伝えなかった。


他にも可能性はいろいろあったのかもしれないが、僕は、何故かそれが大人のやったことだと決め付けていた。
大人はそれほど、よくわからない力を持っている存在だった。

ただ僕は、自分が大人をそう思っていることが嫌だった。

とても嫌だった。



近くの公園にそれだけの池と川があれば、必然的に少年たちの遊びの中に<釣り>というものが生まれてきても不思議ではない、、、よね?
もちろん、それはいわゆる<釣り>と呼べる代物からは程遠かったんだけれど。


釣竿はそこいらの木の棒や、虫・魚捕り網の柄に糸を巻きつける。
釣り針は、大人や、青年に近い少年たちが使い捨てたり、どこかに引っかかってとれなくなったものを、拝借する。
釣り餌は、地面を掘って引っ張り出したミミズがもっぱらだった。

僕たちがよく釣りをしたのは、一番小さな池だった。ここは道路や歩道から池の淵までが一番近く、中にも入りやすい。
それにブルーギルと呼ばれるすさまじい繁殖力と、すさまじい雑食振りで素人の僕らでも簡単に釣ることができる魚が一番たくさんいたからだ。


薄っぺらい青色っぽい魚で、鋭い背びれと尾びれ、ちょっと残虐にした骨川スネ夫の横顔。そんな感じ。


釣り人の残した魚用の餌はもちろんのこと、虫にミミズに、うどんは当たり前。
カラスの食べ散らかした生ごみも食べるし、しまいにはプルトップキャップのキラキラにも喰らいついてくる。
・・・何でもいいのかよ。

そんなブルーギル。僕らのような経験と装備と技術のない少年たちには、それくらいしか釣ることができなかった。
レベル3、銅の剣、僧侶が紙一重でホイミを覚えている。さしずめ、頑張ってもバブルスライムあたりが妥当だろう。


傍らで真剣に釣りをしている大人は、喧しくハシャギまくる僕らを、いつも少し邪魔そうに、面倒くさそうに見ていた。
横に置いているバケツの中に、色んな種類の魚を泳がせながら。
僕たちが喜んでバケツに入れているブルーギルを、ポイポイ池に投げ返しながら。
(もちろん、話しかけると、親切に優しく、釣りのことを教えてくれる大人もいたけどね。)

僕はいつもそれをチラチラ見ていた。羨ましさと疎ましさの入り混じった視線で。


「大人って、いーよな。いっぱい釣れて。」
「そーやなぁー。」
「俺らもブルーギル以外釣ってみよーや。」
「せやけど、いっつもブルーギル以外狙ってるやん。」
「そら、そうやけど、でも、喰らいついてくんの、こいつらばっかりやで」
「それが問題やんけ。」
「そうやんけ。」

「なぁ、中くらいの池で釣ろうや。」
「いっつもやってるやん。あそこでも、俺らがやるとブルーギルばっかりやん。」
「一緒やって、どこでも。」

「あっ!あれちゃう?大人がいっぱいいるから釣れへんのんちゃう?」
「は?」
「大人が全部釣ってまうんやって。その日に釣れるブルーギル以外、全部。」
「マジで?」
「んで、あいつらいっつも最後には釣ったやつ逃がしてるやろ。しかもいっつも俺らより遅くまでいるし。」
「でも、大人がいないときに釣りなんてできへんやん。俺らよりいっつも早くからいるし。」
「だーかーら、雨の日やって。」
「は?」
「大人は雨の日はこーへんで。濡れるん嫌がりよるから。」

「うわぁっ。ホンマやなぁ。」
「しっしっし。雨の日ええなぁ。んなら、雨の日に来てみようや。」
「おう、それやな。」


・・・全部大人が釣ってるから、大人がいなかったら釣れる?なんとも、超超短絡的。


そして、僕らは雨の日に釣りに行くことに決めた。

しかも、よりによって台風で大雨警報が出ていたとき。
極端だったなぁ、しかし。

友達に電話する僕
「なー、台風やけど雨もましになってきたし、いこーや釣り。」
「さすがに台風の日は無理やわ。おかんに怒られるもん。」
「え?マジで?でも大人おらんで。大人が怒るくらいやから。」
「でも、すまん、あかんわ。無理やわ。」

それでも一度決めると諦められないのが僕の性格。

魚捕り網の柄にタコ糸巻いて
その先に、拝借した親父の釣り針つけて
バケツもって

颯爽と、不気味な雲の蠢く 風のつよーい公園に向かって出発。

その時は何故かいつもの、一番小さい池ではなく、お気に入りの中くらいの池に向かった僕。
タコ糸と針が風に飛ばされてしまわないように、しっかり抑えながら中くらいの池に流れ込む川に向かった僕。

川の前に立って呆然とする僕。
それもそのはず、想像してみてください。
雨はほとんど止んでいるにしても、大雨警報が出ている台風の日。
その水かさとスピードはとんでもない。いつもの倍以上の水かさと比べ物にならないくらいのスピード。
いつもは透明な水も真茶色。なーーーーんにも見えない状態。

心の中では
「あちゃー。どうすんねんコレ。」

しかし、ここまで来た以上考えても仕方が無い。
まずは餌を探すんだ!といつもどおり木の根元を掘り起こす僕。準備万端、スコップはもってきていたのだ。
いつもより、サクサク、サクサク掘れる土、異様なシチュエーションと異様な雰囲気で、ドンドンあがってくるテンション。

さしずめ、僕の周りの景色や雰囲気に効果音を加えるとすれば「ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォ」が妥当だろう。

しかし、テンションとは裏腹にミミズが一向に出てこない。
掘りすぎたのか、むき出しになる根っこ。
「普通、ここまで掘ったら絶対何匹は出てくるもんやのになぁ。」
と思うと同時に
「うわぁっ、なんやこれ??」
根っこがわしゃわしゃ動いてる。
根っこ・・・根っこくらい太いミミズ・・・だった。

「でけーーー!!!」
今の僕なら引くのかもしれないが、少年の僕、引くどころかテンションが上がる上がる。
「うおーー。こんだけデカかったらデカイの釣れる!!!」

またまたいつもの短絡的思考。

しかし!その思考に従える少年時代の素直さとすばやさ。
僕は必死でその巨大ミミズを引っ張り出した。ためらいはない。軽く30cmくらいはある。小指の太さくらいはある。
(隣でmahoが「子供やからそんなに大きく見えたんちゃうの!?」・・・んなこたーーない!と思う。)

そのままの勢いで、魚捕り網にタコ糸を巻きつけた先に針がついた竿みたいなもの(長い!以降<竿もどき>で。)の針に巨大ミミズをつけて
「しゃぁーー!」
すさまじい勢いで流れている川に向かって投げ込んだ。

・・・
・・・・・・
しまった。。。

全部つけちゃった。
ぜ~んぶ、つ・け・ちゃ・っ・た。

・・・さすがに長すぎる。
どんな魚がそんなに長い巨大ミミズを丸呑みできるっていうんだぃ。


あーあ。もったいない。何回かに分ければよかった(グロテスクでごめんね。)。

そう後悔するまで時間のかからなかった僕。
そう後悔すると、早速回収にかかろうとするまで時間のかからなかった僕。

竿もどきを力いっぱいひっぱろうとすると

・・・
・・・・・・
しーーーん。


マジで?

「うそやん。・・・地球釣ってる。。。」

【「地球を釣ってる」とは釣り用語で、ねがかりといって、針が川底の何かにひっかかってる状態を指す。】

もちろん、スペアを用意していない僕にとって、地球を釣ってしまったということは、完全なる終了を意味する。


「マジで・・・。」
こんなシチュエーションで、スペースシャトルのように打ちあがったテンションは地球の重力より落ちるのが早い。
ちょっと泣きそうになる。どーせ一人だし。泣いても誰にも見られない。

でも、泣くなら全部ダメになってからにしよう。
針がとれて糸がきれて竿もどきが単なる、網の柄に戻ってから、それを思いっきり投げながら泣いてやろう。
そう決めた僕はとりあえず、力いっぱい竿もどきをひっぱった。

重い竿もどきの感覚
そのままの勢いで尻餅をつく僕。

もう台風の恩恵でドロドロネチャネチャになっている地面で汚れることすら何とも思ってない僕にとって尻餅をつこうが背中をつこうが関係はなかった。

でも、でもね、その尻餅をついた僕の横には何かいようにデカイ物体がどさりと。

しかも、その物体は、ピチャピチャ跳ねている。ピチャピチャっていう可愛らしい効果音というよりはビチャビチャって感じ。

黒光りしている大きなその物体。

「うおぉ!!!でかっ。この鯉でかっ!!!」

そう地球を釣ったと思い込んでいたその重さはこのデカイ鯉のものだったのだ。
だいぶデカイ鯉。正直なところ鯉としては言うほどデカクないとは思う。

しかし、この小さな川という場所設定、竿もどきという装備、今までに釣ったブルーギルという魚の大きさ的な経験値。
すべてをひっくるめると、この鯉はデカイ。

レベル3、銅の剣、魔法使いが紙一重でメラを覚えている。そんな状態でカンダダを倒したようなもの。全然、妥当でない。

デカイ。デカイ収獲。


もう泣くどころか、涙は涙でも、うれし泣き。
「おしゃーーー!!!おしゃーーーー!!!!」
ひとしきりバタバタ暴れて、喜び叫び倒した後


「どーすんだ、これ。。。」
「うーん、噴水・・・・いや、、、ナイナイ。」


もうこれ以上大人にもってかれたくないし、こんなの運べない。さすがにかわいそうだ。

でも誰かに、「俺が釣ったんだぜぃ!!」って伝えたい。証拠を残したい!!
ジタバタする僕。
あー、どーしよ、これ、どーしよ。
バタバタする僕。

その間もビチャビチャする鯉。

・・・
・・・・・・。

しょーがないわな。
そう思った僕は、何か証拠を残そうと

まず、聖剣エクスカリバーを大岩に突きさした。
(訳:竿もどきを巨大ミミズがいた木のそばに突きさした。)
剣を抜くことができる選ばれし勇者が現れるその日まで、その剣は神々しくそこにあるように祈りつつ。
(訳:ボロボロになった竿もどきを、誰かが抜いてポイっと捨ててしまわないことを祈りつつ。)

それから、何度も自分に、これでいいんだと言い聞かせて
そのデカイ鯉を池にドカンと放した。
一瞬で濁った川に消えていくデカイ鯉。


僕は一息ついて、巨大ミミズを発掘した木の根元に座り込んでいた。
濁った川に消えていったデカイ鯉を想像しながら。

その傍らには、すべて知っているかのように、まばゆい光を放ちながら、エクスカリバーが神々しく突きささっている。


そして、僕は笑っていた。

最初はクスクス。

その声はだんだん大きくなり

シシシシ

ワハハハハ

ガッハッハッハッハ


僕は腹の底から笑っていた。

大人の姿を想像しながら。



そして僕は、自分がそう思っていることが、少し嫌じゃなくなっていることに気がついた。

嫌じゃなくなっていることに、はっきり気がついた。



僕らが大人に勝った日。



つづく。

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